飲食店経営というと華やかな印象を受けますが、その一方で安定した経営を続けていくのは難しいといわれています。
長くお店を続けていくためには、開業前にしっかり準備を行い、計画的に経営していくことが大切です。
今回は、これから飲食店経営を検討している方向けに、飲食店の廃業率や、飲食店経営が厳しいといわれる理由、長く経営しているお店の特徴について解説します。
帝国データバンクが公開した「飲食店」動向調査によると、2021年中に発生した飲食店の倒産は569件でした。(※注1)
新型コロナウイルス感染拡大の影響によって倒産件数が780件にも上った前年に比べると大幅減となりましたが、飲食店の倒産は新型コロナのみに起因しているわけではありません。
実際、新型コロナの影響が出る前の2018年の倒産件数は600件を超えており、その前年の2017年に至っては約700件にも上っています。
もちろん、新型コロナの影響も少なくありませんが、それ以前でも飲食店の廃業率は30%に上ると言われており、成功しているお店は決して多くないことがわかります。
※注1:株式会社帝国データバンク「『飲食店』動向調査(2021年)」
現在の飲食業界は需要が増加しているものの、いくつかの大きな課題に直面しています。
店舗運営の効率化や顧客満足度向上のため、DX化が進められています。デジタル化により社会や生活の形・スタイルが変わることで、データとデジタル技術を活用し、顧客や社会のニーズをもとにサービスや組織などを変革し、競争優位性を確立することがもとめられています。
環境問題に対応するため、水資源の効率利用や植物性代替食品の導入が広がりつつあります。
SNSによる、イタズラや風評被害が広がりやすい環境です。これに対処するため、セキュリティや衛生管理の強化が求められています。
これらの課題に対応するためにコスト管理やメニューの工夫、スタッフの働きやすい環境の整備、新技術の活用など、多角的な取り組みが必要です。長期的な視点で持続可能性やデジタル化を進めることが、業界全体の成長につながると考えられます。
飲食店経営が厳しい、難しいと言われる理由は大きく分けて4つあります。
飲食店の売上は来客数や1人あたりの単価によって左右されるため、毎月の売上はなかなか安定しません。
なかなかリピーターがつかない、近場に競合店があるといった理由から、毎月の客数が乱高下すると、月ごとの収入が大きく変動するため、経営の見通しを立てるのが難しいといわれています。
飲食店では提供するメニューに使用する原材料を仕入れなければなりませんが、原材料価格は社会情勢や市場の動向に大きく左右されます。
国内の動向はもちろん、輸入がメインの食材は海外の動向にも影響を受けるため、新型コロナや戦争といった大きな事象が起こると原材料価格が急激に高騰する場合があります。
一方で、長引く不況から日本の消費者は「安くて美味しいお店」を求める傾向が強いため、原材料価格の高騰によってメニューの値上げを余儀なくされた場合、客足が遠のいてしまうおそれがあります。
飲食店業界はもともと人手不足になりやすい産業と言われており、人員の確保に四苦八苦しているところも少なくありません。
新型コロナの感染拡大にともなう休廃業の増加により、人手不足問題は一時棚上げとなりましたが、営業制限が解除されて以降はだんだんと客足が戻り、再び人手不足感が高まりつつあります。
人手が足りないとうまくお客さんをさばくことができず、売上が伸び悩んで経営不振に陥るリスクが高くなります。
飲食店経営では、実際に店を営業している時間だけでなく、開店前の仕込みや閉店後の事務作業も行わなければなりません。
特に朝から晩まで営業しているお店では、長時間労働が常態化しやすく、体力・気力面で苦労する経営者も多いようです。
飲食店において店舗の立地は重要です。しかし、集客しやすい立地では店舗の賃貸費用が高くなってしまいます。また内装工事、厨房設備の導入など、開業前に多額の資金を必要とするため初期費用が大きな負担となるのです。また売上が安定するまでは家賃や従業員給与、仕入れ代金などの固定費を賄う資金が必要でそれらが資金不足となり、経営が行き詰まるケースが多くみられます。
飲食業界は参入が比較的容易であるがゆえに、常に多くの飲食店が競争している状態です。トレンドの変化が早く、人気を維持するためには定期的なメニュー改定やサービスの改善が求められます。そのような中で、大手チェーン店やフランチャイズ店が、価格競争や広告戦略で優位に立つことが多くみられます。差別化をはかるためには、競合店のリサーチをおこなったり、トレンドを逃さないようにするなどの努力が必要です。また価格を高く設定すると顧客が離れ、低すぎると利益がでないため適切な価格設定が重要となります。
飲食店は立地の影響が直結します。良い立地を確保できい = 集客が難しいということになりやすいです。また近年のSNSや口コミの影響力は大きく、ネガティブなレビューや評判はすぐに拡散されてしまいます。そうならないためには顧客満足度を常に高く保つ必要があります。SNSやデジタルマーケティングを効果的に活用できないと、認知度が低いまま終わってしまうこともあるのです。
新型コロナ感染症後、感染症対策や衛生管理の徹底も一層重要視されています。清潔な店内はもちろんのこと、保健所の規制や食品衛生法をしっかりと遵守
しなくてはいけません。
飲食店経営は難しいといわれる一方で、毎日のように繁盛し、長く営業を続けているお店も少なくありません。
長く経営を続けているお店には共通点がありますので、飲食店経営を検討している場合はぜひ参考にしてみましょう。
ここで長く経営しているお店の特徴を2つご紹介します。
長く経営を続けている飲食店は、店舗ごとのコンセプトをもとにターゲット層を明確にし、ピンポイントの集客を行っています。
たとえばオフィス街はビジネスパーソンがメインターゲットとなるため、ランチの時間帯は短い昼休憩でもささっと食事を楽しめるようなメニューを提供したり、ディナーは大人がゆっくり食事できるようなメニュー・店づくりを心がけたりしています。
ターゲットを絞った集客は訴求力が高く、新規顧客の集客はもちろん、リピーターの定着率もアップすることができます。
飲食店経営で安定した収益をあげるためには、売上を伸ばすと共に、徹底したコスト管理を行う必要があります。
長く経営している店では、売上や原価、客数、客単価などの数字をしっかり把握し、月ごとの分析を行っています。
たとえば特定の曜日・時間帯に客数が集中しているのなら、その時間帯に人員を集中させたり、仕入を多くしたりすることで、無駄のない営業を行うことが可能です。
飲食店は他の産業に比べて開業数が多い一方、倒産・廃業する割合も高い傾向にあります。
厳しいといわれる飲食店経営を長く続けているお店では、コンセプトに合った集客や店舗にまつわる数字の管理などを徹底して行っていますので、飲食店経営をスタートする際は、これらの事前準備を怠らないようにしましょう。